声の時代から画像の時代へ——騙しの手口はこう変わる
- Shylock
- 5月4日
- 読了時間: 5分
「もしもし、おれだけど……」
そんな一言から始まる“オレオレ詐欺”が社会問題となっていたのは、もう20年近くも前のことです。
「身内を名乗り、事故やトラブルを装ってお金を引き出す」という手口は、その後も進化と変化を繰り返し、さまざまな詐欺が世の中に登場してきました。
しかし、テクノロジーの発達とSNSの普及によって、詐欺のフェーズは今、確実に次の段階に移りつつあります。
これからの時代は、「声や文章」だけではなく、“画像や動画”を使って信用させる詐欺が主流になると考えられています。
この文章では、過去の詐欺の手口から現在、そして未来に起こりうる詐欺の進化を丁寧に辿りながら、なぜ“画像”が新たな騙しの道具になるのか、そして私たちがどのように注意すべきかを分かりやすく解説します。
■詐欺の第一フェーズ:声と感情に訴える「なりすまし型」
最初に社会問題化したのが、2000年代初頭に広まった「オレオレ詐欺」です。
この詐欺は、「身内を名乗る」→「事故やトラブルに巻き込まれた」→「今すぐお金が必要」と、緊急性と身内愛を利用して人を騙す、非常に感情に訴えるものでした。
特徴としては:
• 音声通話による直接的な訴え
• 高齢者が主なターゲット
• 銀行での高額振込を誘導
この時代は、まだテクノロジーも限定的で、詐欺の武器は「言葉」だけでした。しかし、それでも人は簡単に騙されました。それほど「家族」「事故」「責任」といったキーワードが、人の心理に強く働きかけるからです。
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■詐欺の第二フェーズ:文面・画面を利用した「情報偽装型」
次に登場したのが、「フィッシング詐欺」や「架空請求詐欺」といった、インターネットを活用した詐欺です。これは主に2010年代に拡大し、現代でも続いています。
代表的な例:
• 「未納料金が発生しています。至急ご連絡を」などのSMS詐欺
• 銀行や大手通販サイトを装ったメール
• 「副業で月収100万円!」などを謳う広告・LINE勧誘
このフェーズでは、「声」から「文字」へと手法が変わりました。
人の感情を動かすのではなく、「制度的」「業務的」な体裁で信じ込ませるのが特徴です。
手口としてはより“システム化”され、詐欺師が見えにくくなった一方で、「それっぽい雰囲気」を装うことで信じさせる力が強まりました。
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■詐欺の第三フェーズ:画像で信じさせる「視覚信頼型」
そして現在、そしてこれからますます増えていくと予想されるのが、“画像を使って信じ込ませる詐欺”です。
これまでの詐欺は、言葉や文面がメインでしたが、今後は“視覚情報”を使った詐欺が主流になると考えられています。
たとえば、こんな詐欺がすでに実在しています:
• 振込済の画面を捏造して送る
→「今あなたに1万円振り込んだから、後で返して」とLINEで画像を送りつける
→ 実際には振り込まれておらず、信じて騙される
• 本人確認書類の画像を加工して送ってくる
→ 運転免許証や保険証の画像を提示して「本人確認済」「安全」と思わせる
→ 他人の画像を盗用しているか、そもそも加工されている
• 支援実績の画像を装って信用を得る
→ レトルトカレーやお金の束の写真を載せ、「多くの人に支援しています」と投稿
→ 実際には物資など送っていない(画像はネットからの拾い物)
これらはすべて、「目で見える証拠」があるから信じてしまうという心理を逆手に取った手法です。
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■なぜ画像は人を簡単に騙せるのか?
人間は、文字や音声よりも、視覚から得た情報を信じやすいという傾向があります。
「見たもの=本物」と感じてしまうからです。
たとえば:
• 振込明細の画像
• 買い取り実績のLINE画面
• 過去にやり取りした風のメッセージのスクリーンショット
これらはすべて簡単に偽造・加工が可能です。
スマホひとつで誰でもそれらしく作ることができます。
AI画像生成の技術も進化し、「本当に存在する人」のような画像が偽造可能な時代です。
その結果、「証拠がある」「実績がある」「見たから本当」と思い込んでしまい、被害者は自ら騙されにいってしまう構造が完成してしまうのです。
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■画像型詐欺はSNSとの相性が非常に良い
現在、多くの詐欺はTwitter(現X)・Instagram・LINEオープンチャットなどを通じて行われています。
そこには、
• 「支援します」「即日融資します」といった投稿
• 「支援済みの方の感謝の声(※自作自演)」
• フォロワー数の多いアカウントを買って運用
• コメント欄に「助かりました!」などの捏造レビュー
が並び、詐欺とは思えないほど洗練された「安心空間」が形成されています。
中でも注意すべきは、
• 先払い詐欺:「まず振り込んだので手数料を返してほしい」
• 後払い物販詐欺:「後で買い取るから、まずこの商品を契約して」
• 支援詐欺:「支援しますが、手続き料だけ先にお願いします」
これらはすべて、“画像付きで信頼を演出”してから「先にお金を払わせる」仕組みです。
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■まとめ:画像は真実の証明ではなく、演出の道具になる時代
ここまで見てきたように、詐欺の手口は「声」→「文面」→「画像」と段階的に進化してきました。
これからは、「画像だから安心」「証拠があるから大丈夫」という感覚が、最も危険になる時代がやってきます。
対策として私たちができることは以下のようなことです:
• 「見た=本物」と思わない習慣をつける
• 画像の出どころ・アカウントの信頼性を調べる
• すぐにお金を払う行動に出ない
• 少しでも怪しいと感じたら一呼吸置く
詐欺師たちは、どんどん“安心させる演出”に長けています。
その演出の主役が、これからは「画像」「視覚的な証拠」になることだけは、絶対に忘れてはなりません。
「見せられた証拠」が、真実ではない時代がもう始まっています。
私たちの“見抜く力”が、これまで以上に問われているのです。